この記事を書いた人：武山 円　
ＹＳカウンセリングセンターカウンセラー
スクールカウンセラー　公認心理師

母子分離不安による登校の悩みを解決｜段階的アプローチで安心を取り戻す方法

学校に行こうとすると、わが子があなたをぎゅっとつかんで離れようとしない。
「学校に行けない理由」を聞いても、はっきりしない――。
そんな日が続くと、どうしたらいいのか分からず、付き添う親御さんも疲れてしまいますよね。

学校へ行けない理由をうまく説明できないお子さんはとても多く、その背景に「母親（主要な養育者）から離れることへの強い不安＝母子分離不安」があるケースが少なくありません。お子さん自身も“なぜ苦しいのか”を理解できていないことが多く、ただ「ママと離れたくない」「離れた瞬間に心がざわざわする」という感覚だけが先立ってしまうのです。

母子分離不安は、決して「甘え」や「母親のせい」ではありません。
お子さんが今、安全基地であるあなたにしがみつきながら、必死に心を保とうとしているサインにすぎません。
そして、この状態は 理解しながら適切に関わることで、軽くなっていくものです。

この記事では、母子分離不安とは何か、その特徴や進行の仕方、よく誤解される原因、そして今日からできる対応までを、専門的な視点で丁寧に解説します。

読み終えるころには、「この子にも乗り越えられる道がある」と、少しでも光を感じていただけるようにまとめました。
どうか安心して、ゆっくり読み進めてみてください。

この記事を読んでわかること

母子分離不安の特徴

母子分離不安には、いくつか共通する特徴があります。
ただし、子どもによって表れ方はさまざまです。「全部に当てはまる」というわけではありませんので、お子さんを状況に対する理解を助けるものの一つとして参考までにお読みください。

① 母親（主要な養育者）から離れることへの強い抵抗

登校・登園の場面だけでなく、買い物に行く、別の部屋で過ごすといった日常的な場面でも、母親と離れることに大きな不安を感じることがあります。「一緒にいて」「ついてきて」と強く求めることが増えます。

② 身体症状として現れるケースが多い

不安が高まると、次のような身体症状として出やすくなります。
• 頭痛
• 腹痛
• 気持ち悪さ
• 動悸
• 足がすくむ感じ
• 吐き気
これらは“仮病”ではなく、不安が体に出ているサインです。

③ 不安の理由を説明できない

「どうして行けないの？」と聞かれても、子ども自身が言葉にできないことがほとんどです。心の中では「離れた瞬間に不安になる」「どうしても怖い」という感覚があるだけで、うまく伝えられないのです。

④ 母親の姿が見えないと落ち着かない

家の中でも近くにいようとしたり、母親が外出すると極端に不安が強まることがあります。
夜に何度も確認しに来たり、眠れなくなることもあります。

⑤ 母親の負担や不安を敏感に感じ取る

母親が疲れていたり心配していると、それを敏感に感じ取り、さらに離れにくくなることも。
「ママを困らせたくない」という気持ちと「離れられない苦しさ」が葛藤となり、ますます苦しくなる場合があります。

⑥ 学校や外出の場面で特に不安が強くなる

学校、学童、習い事など、“母親と離れる時間が長い場”では、症状が一気に強く出ることがあります。
これが続くと、登校しようとするだけで身体症状が出たり、玄関や校門で固まってしまうこともあります。

母子分離不安はどう進行していくか（経過・回復まで）

母子分離不安は、突然ピークに達するわけではありません。多くの場合、小さなサイン→不安の強まり→混乱期→落ち着き始める時期という流れがあります。以下は、一般的な経過であり、すべての子が同じ段階をたどるわけではありませんし、揺り戻しがあることもよくあることです。「後退しているわけでも、悪くなっているわけでもない」「前に進んでいる」という目安としてご覧いただけたらと思います。

① 前駆期（小さなサインが出始める時期）

最初は“ほんの少しの違和感”として現れます。
• 朝になると情緒が不安定になる
• 「ママ一緒がいい」という場面が増える
• 些細なことで涙が出る
• 学校の話題になると表情が曇る
この段階ではまだ、周囲が「何かあったかな？」「疲れているのかな？」と見過ごしてしまうことが多い時期です。

② 進行期（不安が強まり、身体症状が目立つ時期）

母親と離れる場面で、強い不安反応が出始めます。
• 登校前に頭痛・腹痛・吐き気
• 玄関や校門で体が固まる
• 離れようとすると涙が止まらない
• 「行きたいけど行けない」状態が続く
この頃には、子ども自身も理由が説明できず、ただ“心と体がついてこない”苦しさが強くなります。

③ 混乱期（不登校につながることが多い時期）

不安のピークが続き、母親から離れられない状態が日常化してきます。
• 母親が外出すると強い不安
• 一人での行動が極端に困難
• 夜に何度も母親を探しに来る
• 登校を試みても体調悪化で断念する
親子ともに疲弊しやすい時期であり、学校へ行く・行かないよりも「心身の安定」が最優先になる段階です。

④ 回復期（再び安心を取り戻し始める時期）

多くの親御さんが混乱期がずっと続くのではないかと不安になりますが、
混乱期を過ぎると、“落ち着いていく時期”が訪れることが多いです。
• 家での表情に余裕が出てくる
• 母親が離れても大きく動揺しない日が増える
• 生活リズムが安定してくる
• 外に出られる日が少しずつ増える
• 登校の話題を出しても以前ほど過敏にならない
この時期の子どもは、「安心の土台が回復しつつある状態」といえます。
無理に登校再開を急がず、安心・成功体験を積み重ねることで、自然と“母親から離れても大丈夫”という感覚が育っていきます。

一度落ち着いたように見えても“揺り戻し”が起きることもあります。悪化に見える時期を挟みながら落ち着くケースがとても多いということも覚えておいていただけたらと思います。

母子分離不安は母親のせいなの？母子分離不安の原因は？

母子分離不安が起きると、多くのお母さんが最初に自分を責めてしまいます。
「私の育て方が悪かったのかな…」
「甘やかしすぎた？　逆に厳しすぎた？」
「仕事をしていたから？　離れる時間が少なかったから？」
そんなふうにお子さんの出来事からご自分の接し方を振り返っていらっしゃるお母さんは、素敵なお母さんです。しかし、結論から言えば、母子分離不安は“お母さんのせい”ではありません。

1. 子どもの気質や発達段階が大きく影響する

生まれつき不安が強い、敏感で慎重、環境の変化が苦手など、子ども自身の気質が強く影響することがわかっています。同じ環境で育てても、兄弟姉妹で反応が全く違うことがあるのはそのためです。
また、幼児期〜学童期は「安心できる大人と離れること」に不安を感じやすい時期であり、これは発達上ごく自然なことです。

2. 生活環境の変化によるストレス

入学・進級・クラス替え・引っ越し・習い事の変更など、一見すると“当たり前”の変化でも、お子さんにとっては大きな変化で、心に大きな負担になることがあります。そのストレスが母子分離不安として現れる場合があります。

3. 家族関係が良好でも起きる

「家がギスギスしていたわけでもないのに…」という声も多いですが、母子分離不安は、家庭環境の良し悪しだけで説明できるものではありません。むしろ、お母さんという“安心できる存在”がしっかりいるからこそ、離れる不安が強く出るという側面もあります。それだけ、子どもが信頼している証拠でもあります。

母子分離不安への対応

母子分離不安は、適切な関わりで必ず軽くなっていきます。ここでは、家庭でできる具体的な対応を、段階的にわかりやすくまとめました。

1. まずは“安心の土台”をつくる

母子分離不安は、「離れることへの恐怖」が強くなっている状態です。恐怖が強い時に、“頑張らせる”とかえって悪化してしまいます。まず大切なのは、安心できる日常を取り戻すことです。
■ できていなくても叱らない
朝の支度が進まない、甘える、離れられない…どれも“わざと”ではなく、子どもなりの防衛反応です。
「今日はしんどかったんだね」
「離れるの、ちょっと怖かったんだよね」
と、気持ちをそのまま受け止めるだけで、子どもの不安は少しずつ緩みます。
■ スキンシップや一緒の時間を意識的に増やす
不安が強い時は、スキンシップもとても効果的です。頭をなでる・背中をさする・ぎゅっとハグするなどで、「安全」が体感できます。スキンシップを望まない場合は、特別に何かをしなくても、そばで好きなことをするだけでも、「安心な時間」を広げることができます。

2. “離れる練習”は、段階を細かくするほどスムーズ

母子分離不安を改善するには、「離れられた成功体験を積む」ことがカギです。
ただし、いきなり学校・教室という大きなステップは負担が大きすぎます。
細かく細かく、段階を分けるほど成功しやすくなります。
■ ステップの例
1. お母さんが同じ部屋にいる状態で、数分だけ一人で過ごす
2. お母さんが家の別の部屋に移動（声は届く距離）
3. お母さんが玄関まで出てみる
4. 家の周りを短く歩く
5. 信頼できる第三者と数分だけ過ごしてみる
6. 学校に「顔を出すだけ」
7. 保健室や別室で短時間過ごす
8. 1時間だけ授業に参加
…というように、細かく“できた”を積み重ねることがとても大切です。

また、一度うまくいっても翌日できないことがあります。揺り戻しは経過のひとつです。責めずに、また小さなステップからやり直せば大丈夫です。

3. お母さん自身の“安心”も、改善を大きく左右する

母子分離不安では、親の安心が、そのまま子どもの安心につながるという特徴があります。
もちろん、「不安にならないで」と言われてできるものではありません。
だからこそ、以下のポイントを参考にしてみてください。
■ お母さんの休息は“最優先の対応”
睡眠、食事、ひとり時間…
どれも後回しになりがちですが、お母さんが満たされているほど、子どもの不安は自然と落ち着いていきます。お母さん自身のための時間も「最善の対応」と考えてください。
■ 不安や悩みを一人で抱え込まない
学校の先生、専門機関、相談窓口などに話すことで、お母さんの心の負担が軽くなります。「状況を説明するだけ」でも、胸の重さが和らぎやすくなります。

4. 子どもの“自信”を育てる関わり方

母子分離不安のある子は「できなかったこと」に目が向きがちです。そこで意識したいのが小さな成功・小さな変化を言葉にして伝えることです。
•「さっき（1分間）一人で待てたね」
•「今日は玄関まで来られたね」
•「話してくれて嬉しかったよ」
など、できた瞬間を丁寧に拾うことで、“自分はできる”という感覚が積み上がっていきます。これは不安な状態や不登校状態から回復するうえでとても大切です。

6. 回復には“波がある”ことを理解しておく

母子分離不安は、良くなったり悪くなったりの波があるのが一般的な経過です。昨日できたことが、今日はできない。急に後戻りしたように見える。こうした揺れは“悪化”ではなく、心が安定に向かっていく途中のプロセスです。

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